批評祭参加作品■〈日常〉へたどりつくための彷徨 ??坂井信夫『〈日常〉へ』について/岡部淳太郎
 
やら象徴的だ。
 そして、登場回数こそ少ないものの、妙に印象に残るのが「犀」だ。


夜があけると また
何人かが犀になっている――いま
世界はそんなふうではないのかと
ぼくは玄関先においた掃除機に叩(はたき)をかけながら
ぼんやりと そう考えている
(「7」)


 初めて犀が登場する「7」の書き出し部分である。この後、話者は「あのときなぜか/おれだけは犀にならないと決めこんだ」と昔を思い出しているのだが、やがて掃除をしながら「ぼくの両腕は/いつのまにか硬ばりはじめ」ていて、「背を折りまげてホースを動かしていると/そのまま元にもどらな」くなる。そして、「鼻のう
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