批評祭参加作品■〈日常〉へたどりつくための彷徨 ??坂井信夫『〈日常〉へ』について/岡部淳太郎
だから、すぐに〈日常〉にたどりつくことはないのだ。
それにしても、この詩集には異様なまでに死の臭いがしみついている。死と孤独の臭い。この詩集には様々な事物が登場するが、どういうわけか生きている者はほとんどいない。いるのは「鴉」や「骸」であり、「釘男」であり、「死んだタカハシ」や「詩人K」などの死者たちである。話者の妻などごくまれに生きている者が登場することもあるが、それは話者に対して必要以上によそよそしくふるまう。生きているといっても自分自身の言葉を発することがないから、まるで風景のように見える。話者は「黄泉から戻って」きたゆえに、心身ともに死の臭いをまとっている。だからこそ〈日常〉を復元する
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