批評祭参加作品■〈日常〉へたどりつくための彷徨 ??坂井信夫『〈日常〉へ』について/岡部淳太郎
することが出来ないし、生きている者すべてが他人のように感じられてしまうのだ。
そしてそこに話者自身が招き寄せたのか、謎の「釘男」が立ち現れてくる。
散歩から帰ってみると
玄関のまえに誰かが立っている――釘男(くぎおとこ)だ
かれは左手に鴉の屍をぶらさげ
それを五寸釘で扉にうちつけた
(「1」)
わが家にたどりつくと玄関のまえに
待ちうけていたように釘男(くぎおとこ)が
なんにもしなかった一日を祝福するように
穴のあいた片手をあげるのだ
(「4」)
釘男はいつも話者の前に現われる。話者の家の玄関のまえに立ち、「鴉の屍をぶらさげ/それを
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