彼等のためのソナタ(香りつき)/千月 話子
薄紫の小さな蝶たちは
何処に 消えて行ったのかな
五月には この棚を住処にして
綺麗に並ぶ香り良い花 蝶よ
真上でいつも誰を待つの
藤棚の下で歴史の教科書を開く少女
指先は日本史のページへとさらさら動き
花々が ふさふさと揺れて
花びらがひとつふたつ落下して 付箋紙
一房を砂糖水で煮詰めて作った 甘紫
一枚一枚口に運んでは
微笑む 黒髪の少女よ
千年以上も昔 ここに居て
文机の上で 何を詠むのか
藤の花は 少女の連なり
時を旅したいのなら
此処へ来ると いい
「ヴィオロン」
「は」はガラス窓の為のレクイエム
伝えたいなら
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