山道で蹲る、由美子/N哉
 
底思った。

「あ…、あ…」

 それに答えようとした私だったが、激しい痛みに悶えるばかりで声にならない。老婆はしかし状況を察したらしく、途端に慌て始め

「一寸で戻るから待っておれ!」

 と、急ぎ足で元来た山道を戻っていった。私はもう助かるものだと信じ切って、すっかり安心してしまった。
 それが単なる思いこみだったと知るのは、夕刻も近づき空が真っ赤に燃え始めた頃だった。

「これは大変だ、孕んでいるようだ」

 老婆が連れてきた医者は私を見るなりそう言った。なんと恐ろしいことか、あの時かこの時か、私の頭の中は一瞬にして過去の男で一杯になった。しかし思い当たる節が多すぎ
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