マラソン/木屋 亞万
 

兵士は戦場を背に走る
勝利を胸に抱えて
不要な装備を脇に捨てようと
幾度となく
思いながらも
立ち止まる時間が
惜しくて
伝えなくてはならない使命を
何度も何度も背負い直し
あの木まで全力で走ろう
あの川まで全力で走ろう
もう少し速度を落とさずに
一刻も早く
我らの劇的な勝利を
歴史的な相手の壊滅を
粘り強く戦った同胞の活躍を
伝えなくては
この目で見た光景を
故郷で待つ者達へ



トラックをあと2周走れば
白いラインを踏み越えれば
驚くほどに長かった
耐寒マラソンは終わる
短パンから出た
白くそして赤く鳥肌の立った足を
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