マラソン/木屋 亞万
前へと押しやって
聞こえ始めた歓声に
背中から引き上げられながら
感覚を失った足の裏を
地に打ち付けていく
腕を振るも手は振れない
私を見ていて欲しい人の
声を聞き分けて
最後の力を振り絞って
歩幅を少し大きくする
しばらく歩いたあと
座り込んだ私の元へ
先にゴールしていた
あなたがタオルを渡しに来る
顔は多分赤くなってしまって
息もまだ荒いけれど
それが治まる気配はなく
空が透き通るように綺麗で
温度の低い青で
薄っぺらい雲が流れる
走る兵士と本を読むおじいさんが見えた
声は少し掠れて
余裕な顔のあなたは
葦毛の馬に跨る武将が最期の笛を吹くのを見た
何かに耳を澄ますように
目を閉じて空を見ていた
シャツが背中に張り付き
足の裏は地に張り付いていた
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