七人の話 その5/hon
 
け穴から出て行けるんだ』って。すると彼には、爽快感というか、解放感というか、ある種の癒しがもたらされている。抜け穴の効用はずっと精神的なものであり続けた。抜け穴を持つことで、彼の心に安らぎとうるおいを与えている」
 彼女は話しながら、後ろの壁の一見何もない部分を二箇所、パチンパチンと両手の指で押さえた。それから、下方に並んでいる装飾的な木板をわずかにずらして、体重をかけて壁を向こう側押し込むと、何もなかったはずの壁に忽然と入り口が現れた。
「見なさい。抜け穴があるの、この部屋には。これが理由。私がここを選んだ理由よ」
 彼女は自分の身長よりわずかに低い隠し戸に下半身から体を滑り込ませ、頭だけ
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