七人の話 その5/hon
 
に足を踏み入れたことはない。一ヶ月前、志穂子がハサミで自ら手首を切って部屋で倒れた時、彼はその部屋の前までやってきたが、外からちらりと中をのぞいただけだった。奈々子はずかずかと部屋の中まで入り込んでいたけど、彼は怖くて中へ入れなかった。そのとき、彼がのぞいた部屋の中に、倒れている志穂子の病的に白いふくらはぎと、床一面に散らばった赤いバラの花びらが見えた。彼はそれを見ただけで震え上がってしまい、とっさに身をひるがえすと、秀人の背後にずっと隠れていたのだった。
 一ヶ月ぶりに睦夫が見た彼女の部屋は、床の花びらも既になく、ごく簡素な感じにかたづいていた。
 志穂子は部屋の奥にある化粧台の前に腰かけ、
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