七人の話 その5/hon
 
、泳ぐようにゆっくりと進んでいく。ちょうど部屋の中央あたりで、二人は接した。
「ほら、素敵でしょう、初めて見るものでしょう?」
 彼女がうっとりと差し出したバラを、睦夫は熱心にのぞきこんだ。実際にその花を手で触れてもみた。それは冷たく、かすかに湿っており、柔らかく、かと思うとぬくもりも帯びていて、つまり、それまで睦夫が経験したことのない感触だった。
「すごい」
 睦夫は興奮して、ほうっとため息をついた。
「これが生命よ」志穂子は鋭く光った目で睦夫を見やった。「そしてこれが秘密。つまり今、この屋敷で、ここにバラがあることを知っているのは、私とあんたの二人だけなのよ。理解した? あんた、この
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