七人の話 その5/hon
 
ヒイ兄派だから」
 よく分からないが、やはり彼女は睦夫のことを階段で待ち構えていたようだ。しかし、その日睦夫が土星棟の通路を使おうと思ったのは、まったくほんの気まぐれにすぎなかったのだ。どうして彼女は彼がそこへ来ることが分かったのだろう?
 だが今はそんな疑問より、バラの花のほうが気になった。睦夫は、彼女が抱えたバラの花に興味をひかれ、もっとよくみようと体を傾けた。
「もっと、見てみたい? いいわ。おいで、触ってもいいのよ」
 志穂子はバラを持って睦夫の方へ一歩踏み出し、睦夫も彼女の方へ歩き出した。二人は部屋の両端から、互いに中央に向かって、家具の残骸で埋もれた床を、足元を確かめながら、泳
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