七人の話 その5/hon
を、どこからか持ち込んできて、私に育ててみないかと勧めてきた。こんな環境で気を紛らすのに、こういうものは最適なのだと。私の部屋を見つけてくれたのも、隠し通路とこの隠し部屋の存在を教えてくれたのもミツル兄さんだった。私は引き受けた、他にすることもなかったし」
志穂子は不安定な足場によろよろとバランスをとりながら歩き、睦夫が立っているのと反対側の壁にとりついた。
「最初は全くダメだった。ことごとく失敗して枯らしてしまった。私、すっかり自信を失ってしまった。そのうちイヤになって、もういいや、と投げ出して放置した。すると、突然バラはそこから芽生えて成長をはじめた。拍子抜けしたわ。水や肥料をふんだんに
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