七人の話 その5/hon
 
飛ばしで正面階段を上りはじめた。
 階段の踊り場を折り返した所で、睦夫は突然人の気配を目の前に感じた。踏み出そうとした足先の段の数歩先から、人影が亡霊のように頭上へとそびえ立っていた。
「あっ」
 彼は驚いて、階段から足を踏み外しそうになった。
 あわててバランスを崩しそうになるのを、壁に手をついて押さえつけ、重力で後ろに傾いだ体を無理やり引っ張りあげて支えると、睦夫はどうにかその場に踏みとどまった。
 中腰になって、不意に高まった動悸をなんとか押さえながら、さっと彼は前方を見上げた。
 階段の中央に、人間がひとり立って、睦夫の行く手を遮っていた。
 志穂子だった。
 そのとき、と
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