【エッセイ】裏庭について – それからすこし家の話/mizu K
 
のように薄く削られた鉋屑(かんなくず)が彼の手もとからま
るで鯨の潮吹きのようにざあっとあらわれる。実物を見たこともないのに、パピルスの
ようだ、と思ったのを覚えている。そこには、木の生きものとしての気配が濃密にあっ
た。その生きているものが職人の手わざと感応しあって何かを新しくうみだそうとして
いる。ことばにすればたちどころに木くずにうもれて消えてしまいそうな「なにか」。
 家は、まず地鎮祭のあと基礎をつくり、それから柱や梁を組み上げていく。棟上げが
終れば餅まきがあって、そのときは近所の人々も集まってにぎやかになる。餅が頭上か
らまかれると、わーっと歓声があがり、我先に駆け寄って
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