復想園(2)/生田 稔
 
りの点いている数多いスラムの酒場で酔っぱらい達が騒ぎ疲れて、テーブルに突っ伏して眠りこける頃、そして同じような酔いどれが町の中心の広い道路にゴロゴロ寝ている中を、誰も気付かぬが確かに彼の父の車の音がするのを彼は聞いた。
それは鳩の夜啼きの如く何処からともなく突然に聞こえてくるものなのである。彼のような悪魔の子でなければ、その音を聞き分けることは出来ないのだ。深山に居た頃じっと瞑想にふける彼の耳に幾度か深山の外の遠くのあたりで彼を外へ連れ出そうとして、やって来る父の車の音を聞いたものだ。しかし山に立ち入ることも出来ず、うめき声と共に父が帰っていくのをいつも知っていた。そのことを思い出した時、何故悪
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