題名のない詩/桜 葉一
 
突き刺すような熱射がアスファルトを焦がし
夏の臭いとなって漂う

幻覚か
真っ赤だった とにかく真っ赤だった
右手にはナイフを持っていた
真っ赤だった
目の前に人が倒れていた
真っ赤だった
それから出たであろう真っ赤な血が血溜まり(みずたまり)をつくっていた
真っ赤に染まったソレは微塵も動かない
見覚えのない歪んだ顔が 空を……空白(そら)を見ていた
恐ろしくなりその場を逃げ出した
体中真っ赤だった 途中ナイフを川に捨てた
頭が暑くて 思考が鈍っていた 何が起きたのか…

転がるように家のドアを開けた
無意識に誰かに見られていないかと辺りを見まわす
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