鳥が死なない/楢山孝介
 
色っぽい鳥は全て雌だと信じた。雄々しい様子の連中は皆こちらの目玉を狙っているように見えて恐れた。地面に落ちた燕の雛鳥を助け上げたことがあった。僕は肩車の下になって、友人が巣の中へ雛鳥を返した。雛鳥は死ななかった。友人もその頃はまだ生きていた。友人が死んだ話を書こうと思ったが僕の腕の中で死んだわけではないからうまく書けない。鳥も人も今も今もまた今も今もまた今もそして今も死に続けているがそれらを全て記せるわけではない。生きている僕はまだ死んでいない。

 鳥が死ななかった話を書こう。
 今日、鳥が墜ちるのを見なかった。
 鳥が血を流すのを見なかった。
 鳥が轢き潰されるのを見なかった。
 
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