鳥が死なない/楢山孝介
鳥が撃ち落とされるのを見なかった。
鳥を殺す夢を見なかった。
鳥を殺さなかった。
鳥を見なかった。
一日中家にいた。明るいうちは外を見なかった。陽が暮れてからはカーテンを閉めた。鳥は窓を破って部屋に飛び込んでこなかった。昨日は大気が澄み眼が冴えていて遠くの山の木々が恐ろしいほどはっきりと見えた。今日は冴えない眼で部屋中を見わたしていた。名画のポスターはもういらないなと思ったが高いところに手を伸ばすのが億劫なのでシスレーもパウル・クレーも壁に貼り付いたままだ。カレンダーを破るのは明日だ。どこにも鳥のとまらない壁、床に積み上げた本、どれも寿命が近付いている家電、その他どうでもい
[次のページ]
戻る 編 削 Point(9)