生還者たち(マリーノ超特急)/角田寿星
 
がら体を売っているのだと。

そんなの嘘よ。少女はゆっくりと私の首に両腕をまわす。

たとえ記憶になかったとしても本当にそんな目に会ったのだとした
ら男に触れられることに心が耐えられるものだろうか。いくつかの
逡巡の後に訊ねてみる。
いいえ。死に触れられるよりか ずっとまし。
小屋の大きな窓。その上辺を一匹の蜘蛛が這い回りその神経根を縦
横に放とうと待ち構えている。蜘蛛の神経根はあまりに鋭敏である
がため獲物の捕獲に激烈な痛みを伴いそのためこの地方の蜘蛛は獲
物が掛かるたびに笑い声とも泣き声ともつかない叫びをあげるとい
う。少女は私に覆い被されたまま示指を突きだして蜘蛛を撃
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