「復想園」 /生田 稔
の叫びも彼の歓喜を消すものではなかった。が少しく不快を覚えて岩を離れ、
悪魔から脱した自分の姿を映してみるために、よく澄んだ野の中にある湖水の側に立った。
水面に映じた自身の姿は以前とはまるで違った理知の姿に変じているのを知った。彼はその姿に満足して、いよいよ自分が世に出て悪魔の父と兄弟たちをきりきり舞させることを始めようと思った。
彼のいた無人の野、さまたげの無い瞑想の境は誰が作ってくれたのか、それは彼にも判らなかった。ある夜訪れて五年という年月を過ごしたこの深山をとり巻く広い野を出る時、
彼はふと少し悲しさを感じた。細い綿糸のようなものが背後から、行くな行くなと引っぱるような気がし
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