「復想園」 /生田 稔
がした。然し彼の冷たく済みきった理知の支配する心はすぐその糸を切ってしまった。
いよいよもうこの野には永遠に帰れないだろうと思われる野と外界とを分かつ橋の袂にきた時、彼は橋の上で大小の猿が数匹時折彼のほうを見て笑いながら列をくんで踊り興じているのを見た。彼がその橋を渡りかけると、
猿共は一散にぱっと散りじりになって、巷の方へ赤い尻を見せて逃げ込んでしまった。
「ばかばかしい猿共だ。踊ることことしか知らない。」と考えてこのことを忘れようと思った。
巷は明るかった。色とりどりのネオンが輝き女と男が騒ぎ会っていた。ふと今来た野の方を振り返ると、彼がさっき渡った橋は無残にも砕かれて、彼の住まいした深山は火を吹いて激しく燃え上がっていた。
「失想園」と彼は心の中で呟いた。
然し想いは心に残って消えることはないのだ。これから私は父の悪魔と戦って、以前より素晴らしい自分の復想園を造り上げてみせるのだと深く心にきめた。
そして、はやり立つ心を抑えつつ、巷の奥へと進んだ。 (つづく)
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