停車場/佐々宝砂
 
なら三十万円の金くらいなんとかなる、
しかしいま日本の鉄道は、
かつてのように日本全国を網羅してはいない。
それでも信じている、いや知っている、
いまも日本のどこかの廃駅で、
分厚い方の時刻表片手に、
どこかで見たような高校生が、
幻の電車の出発を待っている。


(2)

黒服ばかりだ。喪服なのだ。
でもここは葬式会場でも何回忌だかの席でもない。
高速バスの始発バス停。
東京発長崎行きの深夜長距離バスの。
喪服集団のなか一人ジーンズにTシャツで、
大きなリュックを背負って、
リュックにはコッヘルとテントをつけて、
いつもの迷彩色アーミーハットを被っているから
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