七人の話 その3/hon
 

「まあな……」
 二人は、それで黙り込んだ。

 仁乃は洗い物を終え、鼻歌をうたいながら、食堂へ食卓を拭きに行った。秀人は、午後からの仕事のことを考えた。
 秀人は最近になって、屋敷の見回りに、しばしば小遥を伴うようになっていた。彼女に仕事のやり方を教え、一つのフロアを二人で手分けしてまわるのである。それは、彼女に仕事を与え、徐々に屋敷の住人の一人としての責任を担わせよう、という秀人の考えなのだが、それだけではない他の狙いもあった。
 秀人は“かの日”のことを考えていた。もう、ずっと昔から、強迫観念のように。いや、より正確には、二年前の、あの日。屋敷のブレーカーが落ちた、あの時からだ。
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