七人の話 その3/hon
 

「そう」
 秀人の日常的な仕事のひとつに、屋敷の部屋を見てまわることがあった。その目的は、屋敷の廃墟化を予防することである。
 屋敷において、長いこと使われない部屋は廃墟化する。廃墟化とは、ある部屋から、そこで生きた人間の体温、ぬくもりが失われ、無機質な物体へ還元されていくことである。それは、ただ時間経過のうちに進行していく。そこに置いてあるモノも配置も、何も動かず変わらないのに、部屋が冷たくよそよそしくなっていき、しまいには干からび、荒廃し、寂寞として崩壊するのである。そして、廃墟はそれ自体で意志をもっているかのように、やがてひとりでに成長、拡大する。たとえば、ある階の三号室が廃墟化す
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