七人の話 その3/hon
うとは。考えられうる事態だったにもかかわらず、秀人はその可能性を全然考慮してこなかった。“かの日”がやってきて、自分から外へ「出ていく」ということしか考えてなかったのである。この世界は予測不能な、分からないことばかりだ。いろいろなことに考え直しを迫られていて、内心泡を食っていたといってよい。
分からないといえば、ひとつ分からないまま放っておいたことがあった。一月前の夜のこと。志穂子が自ら手首を切って倒れ伏したあの夜のことだ。バラの……
「バラの花びら」
秀人はつぶやいた。
仁乃は布巾を持って厨房へちょうど戻ってきたところで、秀人のつぶやきを耳にして、
「え? 何?」
と、聞きか
[次のページ]
戻る 編 削 Point(0)