七人の話 その3/hon
 
きかえした。
「あの床に落ちていたバラの花が何だったのか、シホに聞いたかい」
「いえ、まだ。まだ聞けてないの」
「そうか。なんとなく今まで放っておいたが、ちょっと気になった」
「まだ聞けないでいるわ。いえ、私は聞くのを怖がっているのね。どこかであの子のこと怖れている。怖がるのはいけないことだと思うわ。けど、ダメだな私」
 仁乃はキッチンのシンクを布巾でなんとなく拭いていたが、その手を止めてふと考えこんだ。
「外は嵐でも、家の中には嵐を持ち込まないこと、か」と、秀人は仁乃の口ぐせをいった。
「俺たちは七人でひとつ、ね」
 仁乃は秀人の口ぐせで応対した。二人は互いの口ぐせを交換しあって、小さく笑いを交わしたが、その笑いはどこか淋しげなものだった。
 それから、秀人はカゴから新たな皿を取り、ちょっとずつ回しながら布でぬぐっていった。
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