自作小説冒頭、つまり失敗作のかけら/佐々宝砂
 
上半身を起こした。薄暗い部屋の中で、柚子の白い顔が幽霊のように浮かび上がった。

「柚子……」

 ぼくは、汗にじっとり湿った手を差し出した。柚子は小鳥のように首を傾げ、ぼくの手に、ひんやりする頬を押しあてた。

「ただの夢」

 柚子は繰り返した。

「うん、そうだね、ただの夢だね」

 ぼくは云い、いつもそうしているように、柚子の、ゆるいウェーブのかかった柔らかな髪をまさぐった。だが、いつもと違って何だか感触が悪い。イヤな予感がして手を離した。柚子の長い髪から、奇妙なものがぽろぽろとこぼれた。

「何だ、これは……」

 それは、小指の先ほどの、小さな、しかし無
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