自作小説冒頭、つまり失敗作のかけら/佐々宝砂
、不潔な、おぞましい、ゴキブリに似た三本角の生き物が無数に潜んでいて、そいつらはみんな、ぼくに噛みつこうとスキを狙っているのだ。
ぼくは洞窟のあちこちでゴキブリの這いずり回るカサカサという音を聞き、恐怖に凍りついた。逃げようにも逃げる場所はなく、やがて最初の一匹がおずおずとぼくの足に這い上がり、続いて数え切れない虫どもがぼくの肌の上を蠢きまわった。そして、やつらは、示し合わせたかのように、いちどきにぼくに噛みついた。
「これは夢だ!」
ぼくは叫んだ。恐怖にかられて。
「そうよ、ただの夢」
ぶっきらぼうだが落ち着いた、ハスキーな声――柚子だ。ぼくはベッドの上で上半
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