自作小説冒頭、つまり失敗作のかけら/佐々宝砂
 
頬を一瞬舐めた。ぼくはねとねとする汚れを手の甲でぬぐいながら、あたりを見回した。

 あたりは暗かった。ぼくが開けた大穴から光が射してはいるが、この広い洞窟を隅々まで照らすことはできなかった。ぼくは恐る恐る両手を伸ばした。右手には何も触れなかったが、左手は湿っぽい土壁に触れた。そっと土壁を撫で回すと、何か冷たくて固い、滑っこい感触のものがあった。こいつは何だ? ぼくは指先でそいつをつついた。間髪を入れず、そいつはぼくの指先に噛みついた。ぼくは気が違ったみたいに手を振った。そいつは簡単に指を離れた。

 これはいつもの夢だ。

 ぼくはようやく思い出していた。この洞窟の暗闇には、あの、不
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