さよなら世界/ホロウ・シカエルボク
 



僕らは冬の森を行くあてなく歩いた
朝露の名残に靴が濡れ、靴下まで滲んでいた
つきまとう鳥がずっと上の方の枝で試すみたいに鳴いていた
その鳥のくちばしは長い鎌の様なシルエットだった
時刻はだいたい午前が終わるころで
枝々の間から洩れてくる光はまだ憂いてはいなかった
草が鳴る、リズム楽器の様にたった一度だけのタイミングで
それきり彼等は少しひしゃげてしまうのだ
たった一度だけの音楽、そんなものが
永遠と思える景色の中に連綿と存在していた
僕らは冬の森を行くあてなく歩いた
理由など判らず、だいたい何時からそのあたりに歩をついたのかさえも
まるで同時に同じ夢を見ているか
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