鬼の左手 (3/3)/mizu K
できないでいたのです
鬼、鬼だ
その本来の姿は
蓑笠を被り、落ち窪んだ眼窩、ぼろぼろの衣、
錆のういた鉄杖、筋張った剛の腕
否、それは果たして異形のものの姿か
都の外をそぞろ歩くものだけの姿か
塀の下に横たわる
それは人の姿を装った鬼ではない
人、ひとだ
人は己が中の深いところに鬼を棲まわせている
思い出した、鬼はあの夜あの刀の男に左をばっさりと切り落
とされて失ったこと、やっと思い出したのです、あかあかく、
あかあかく、大門の柱を、からからに乾いた柱と刀の男の喉
をうるおして、うるおした、うるおしたというのでしょうか、
そうです、うるおしたので、あかく流
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