障子の影/佐々宝砂
 
た。ぼくはそっと障子に近づき、影の映った部分を指で押してみた。障子紙がたわむと、影は微妙にたわんだ。女の影はうつむいたままちっとも動かないが、少なくとも、描いてある影ではない。次に、行儀はわるいが、指につばをつけてちょんと穴を開け、中を覗いてみた。

「ぶわっはっはっは」

 もの凄く太い笑い声が響き、ぼくは腰を抜かした。何が見えたかって、それが、馬鹿げた話だが、何も覚えていないのさ。戻ろう、逃げよう、ぼくはそれしか考えなかった。頭をしゃっきりさせようと大きくひとつ振ってから後ろを向くと、閉まった障子があって、そこには日本髪の女の影がうつむいている。目をまわして、どっちが前でどっちが後ろか
[次のページ]
戻る   Point(4)