障子の影/佐々宝砂
焚きしめたような匂いが、ひどく強くなっていた。ほのかに香るならいい匂いだが、強すぎるとそんなにいいものではない。どこか獣くさい匂いだ。ぼくはもう戻ろうと思った。目の前の障子には相変わらず女の影があったけれど、そんなものどうでもよくなっていた。それに、やっぱり、ぼくはちょっと怖かったのだ。外から見るとけして大きな家ではないのに、この、息を切らしてしまうほどに延々と続く三畳間はなんなのだろう。それにどうしてずうっと女のひとの影が障子に映っているんだろう。もしかしたら障子に影が描いてあるのか、それとも、ぼくが入ろうとするのを見計らって女のひとがどんどん逃げているのか。
好奇心が首をもたげてきた。
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