長城計画 3/楢山孝介
んでした
崩落はたまにあることだそうです
悠久の時が流れる長城において
次の「たまに」がいつ起こるかはわかりません
それぞれ作業に取りかかり始めている画家たちは
皆忙しくしているので
一人の脱落者のことを気にする人はいません
私は感傷に任せて
彼の分の仕事も引き受けると申し出ました
たかだか任期が数十年伸びるだけのことです
しかし私の言葉が計画本部に届く前に
新しい絵描きが赴任してきました
長城を絵で埋めたい画家は
世界中にいくらでもいるそうです
新しくやってきた若い絵描き
新進気鋭気取りでいるスペイン人の男は
亡くなった彼のことを私に訊ねてきました
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