長城計画 3/楢山孝介
 

画想を引き継いでくれるのかと思ったら
「そんなものを描こうとしたから崩れたんだ」
なんてことを言い出しました

たしかに一理あるのかもしれません
彼が長城の壁に描こうとしていたのは
当初構想していた砂漠の絵ではなくて
一面の私でした
出会って間もない頃の
彼を見るたび機嫌悪そうにしていた私
彼と打ち解け始めた頃の私
彼を愛し始めた頃の私
裸の私
そしてこれから先何十年もの
日々変化していく私の絵が
壁一面に無数に描かれる予定でした
馬鹿な人でした



(手紙はここで終わっている。近いうちに僕は彼女の元を訪ねるつもりだ)

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