秋の金魚と揺れる水/千月 話子
コロロンと
高音を鳴らしますと
驚いた小さな雀が柿の木で跳ねて
上方から私達を そっと覗きます
柿の木には数個だけ実を残しておりますので
お詫びに どうぞお召し上がり下さいな
銀ダライは紅緒さん用にと
お祖母様に頂きました
少し凹んだタライに程好く水を張り
同じ色の銀の柄杓に水を入れては
高所から流し入れ
流し入れを繰り返しますと
冷たく堅い水は いつしか
優しく緩む水へと変わって行くのです
私は両手で直に紅緒さんを掬い
暴れないように ようし、ようし
となだめながらタライの丸い水へ
ゆっくりと浸してゆきます
ようし、ようし、良い
[次のページ]
戻る 編 削 Point(10)