七人の話 その2/hon
 
このように、いったん意志を定めた仁乃の考えを覆すことは、屋敷の外のノイズを消し去ったり、倉庫の“壁”の扉を開いたりすることなどと同様、この屋敷では不可能なことの一つであった。
「ゴメン……」
 充は秀人の前まで行って、しぶしぶといった調子でぼそっと謝った。
 秀人はそっぽを向いて目を合わせようとせず、黙ったままであった。
 ともかく、この件はそれで終わりをみた。
 これが今から一ヶ月前に起こった出来事である。
 そして、それ以来、新たな約束事が定まった。
 誰かが食事を志穂子の部屋に持って行った時は、必ずドアを開け、部屋に入り、食事を直接手渡しすること。志穂子はドアを開けるのを拒否し
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