すばらしいもの いつも遠くへいってしまうから 台所で玉葱を剥く 玉葱を剥いたからと その人にいう (第九、第十連) 「玉葱を剥く」のは涙の言い訳ではない。祈りのようなものだ。関係性の服をすべて引き剥がしたら何も残らない、けれど総体としてはみずみずしく目を刺すほどの香気をたてる、からっぽのぼくたちの命のような、その「玉葱」剥いて、静かに認めるのだ。「初恋の人」であり「晩御飯のまな板を鳴らしてる」その人も、同じくいずれ死んでしまうものなのだということを、話し手はよくわかっている。