ベースボール/んなこたーない
 
ものであった、と、ぼくは考えている。
ぼくは16歳。毎朝、駅前へ抜ける道の角を曲がるたび、そこに面した家の犬に吠えられている。
父が大学紀要に載せた「戦前・戦後におけるヴァレリー受容とその変移」は、
無味乾燥としていて、読むに耐えない。
葬儀の間中、弟はなんども欠伸を噛み殺している。
その様子を錯覚して、ひとびとはひどく心を打たれる。
数年ぶりに会った母は、すでに苗字が変わっていて、敬語でぼくに話しかけてくる。
Failure――、ぼくは呟いてみる、 Failure――、と。

ぼくは26歳、代打要員である。
しかし新しく就任した監督は、ぼくの名前すら覚えていない。
ぼくは傍
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