映画日記、ただし日付はてきとう/渡邉建志
 
ノでは音が立ちすぎて遅すぎると感じるだろう。エリセは、わざと音が厚く歪んだ縦型ピアノを使うことにより、見事に美しい音楽として成立させている。しかも、それだけでなく映像と音楽が美しく同期している。少女は南の写真を必死の視線で見て、行ったことのない南のイメージを膨らまそうとしている。それと現実の世界(寒い北スペイン)との激烈なギャップ。それが、グラナドスのホ長調とホ短調の移調に重なりあう。もう一度グラナドスのこの曲は映画の最後に現れるが、そこでの移調の含む意味も鋭い。それにしても繊細な要素でこの監督はすべてを語ってしまう。細かな手の動き。屋根裏部屋。交錯する視線。沈黙のなかで。

2005/7/2
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