銀杯/白寿
めるほどしか残されていないもの、
杯底が剥き出しになっているものなど、いろいろある。
そして、とにかく人々は、それぞれの酒杯を掲げて、
「乾杯!」と声高に叫ぶのだ。
私は空の酒杯を握りしめて乾杯したあと、
きまって“何か”を飲んでいるふりをする。
銀の酒杯を手離して、虚しい乾杯を繰り返すことを
やめてしまえば、いっそ楽になれることは分かっている。
けれど、自分の犯した罪に対するこの罰だけは、
せめて最後まで全うしたいと思う。
とはいえ、ただ背負うだけで精一杯なのだけれど。
私は、他人の酒杯に“何か”を注ぐことがある。
正しくは、“何か”の偽物を注いでいるのだけれど。
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