季節の散歩術/岡部淳太郎
 
強引に言えば夏は散歩にはふさわしくない季節ということになる。
 だが、逆に言えば、こんな季節であるからこそよく散歩を成しうるとも言える。すべてにおいて白黒はっきりと決着をつけることを要求する夏の蒸し暑さの前では、散歩など物の数にも入らずに消え去ってしまうかもしれないが、たかが散歩などと甘く見てはいけない。散歩の達人ともなれば、持てる限りのあらゆる技術を総動員して、夏の合理的な暑さから逃れることが出来るのだ。まず暑さの心身両面への侵略を回避する必要がある。そのためには、この季節をただの風景として見なすことだ。当たり前のことではないかと言われてしまいそうだが、そうではない。人はある状況に身を置いてい
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