季節の散歩術/岡部淳太郎
を細めて、風の心地よさに性的愉悦に近いものさえ感じて、歩きながら陽気にうたい出す。春と一緒になって、自らが春そのものとなってうたう。世界と一体化しているという全能感。もう目的地など必要ない。ただうたえ。あなたの歌をうたえば、それはすなわち、春の歌である。
夏
ここに来て、季節は苛烈となる。この季節の散歩は、大げさに言えば苦行のようなものであると言っても差し支えあるまい。何しろ太陽がほとんど真上から自らの栄華を誇って燦々と照りつけているのだ。その暑熱の中、虫や花や風はそれぞれに季節と歩調を合わせて高笑い出来るかもしれないが、人間はそういうわけにはいかない。人間とは文字通り人と人の
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