季節の散歩術/岡部淳太郎
 
を踏みしめるたびに道にも印される。道には春の効果によってもともと色が印されていたのだが、歩くことでさらに確かに色は印され、道の下の地中にまで染みこんでいく。春は春であり、放っておいても風物は色づき始めるのだが、歩行という能動的な動作によってその色はより確かなものとなるのだ。
 そこまで行けば、もうすでに季節の思う壺である。散歩者は単に春の陽気に誘われて何となく歩いてみたかっただけかもしれないが、歩くことで春にとらわれ、春の住人そのものとなる。散歩者の身体の中にまで春の色が入りこんで、内側から春の色彩に染め上げられる。そうすると、もううたい出すしかない。春の陽気の中で、花の香りや空の眩しさに目を細
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