季節の散歩術/岡部淳太郎
 
いと思う。


 春

 春の散歩はわりと気楽なところがある。散歩というものは大抵気楽なものだが、夏や冬のような季節の厳しさがないぶん、春の散歩はより気楽になる傾向にある。
 この季節の散歩は、気楽な上に気分が高揚するものでもある。それは春という季節がもたらす効果である。言うまでもなく、春は生命の息吹が萌え出してそれが目に見え耳に聞こえる形で顕在化する季節であるからだ。こうした季節の特徴を多少比喩的に言ってみれば、すべての風物に色がつき始める時期であると言えるだろう。その色が、歩行とともに身体中にまとわりつく。靴の裏にも色はまとわり、それらの靴裏に貼りついた様々な色が歩行の動作で道を踏
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