季節の散歩術/岡部淳太郎
 
安易に過ぎるかもしれない。たとえば雪国の寒村で、海辺に沿ってまっすぐに伸びる道をひとりの老婆が重い荷を背負って歩いていく。そんな光景を想像してしまうのだが、すべてのものが色を失って白と黒の二階調に還元された風景の中で歩くことは、たとえそれが気楽な散歩であると思ってみても困難でつらいことであるだろう。
 冬の特徴は先ほど挙げた沈黙や単色ということであり、そこからすぐさま死というものを連想してしまうかもしれないが、それは完全な死ではなく、次に生まれ変るための一時的な仮死状態であるということは言うまでもない。そうした一時停止の季節にさえも人が生きていることを示す。そのために歩くことは、決して無駄なこと
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