サイレン/黒田康之
学校で、金髪の男がごろごろしている。僕が初めて尾比の家に行った時には、トルエンをくすねて吸った若い衆に、尾比の父さんが、馬乗りになってタコ殴りにしていた。みんな悪い人ではないが、たいがいが前歯がなかったり、中途半端な彫り物があったりする。話してみると、不良時代の思い出話は面白く、僕は彼らと話しをしに尾比の家によく行っていた。尾比は大人しいやつで、悪いことなんかまったくしない。その尾比が「坊ちゃん」と呼ばれている風景は何だかとても面白い。
練習を始める前に、藤野が僕に寄ってきて、「尾比が愛衣ちゃんとやったんだって」と喜々として僕の耳元でささやいた。遠くの中州のススキがほわほわと群れを成して揺れて
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