逆巻く酒巻/佐々宝砂
ろうか、おーい、女神よ!
逆巻きなさい、酒巻よ
半分かた潮水に浸かった耳に再び天啓が響き、酒巻は悟った。たとえメエルシュトレエムに飲まれようとも、シュトルム・ウント・ドランケの渦に身を投じようとも、それは「巻き込まれている」のに過ぎず、逆巻くこととは明らかに違うのだ。溺れそうになりながら酒巻は浜にあがった。甲斐性はないが泳ぎは得意なのである。逆巻く、逆巻く、逆巻くとは俺にとっていったいなんだ? 酒巻は仕事を休んでまで考えた。あまりに休んだのですべての仕事先を首になった。もともと金のない一人暮らしだったので酒巻の暮らしぶりは落ちに落ち、公園で髪を洗い寝泊まりする身分となったが、あまり気に
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