バタフライ/藤原有絵
 
恋人同士の言葉が
私の夏を少し惑わせて
環状線の波に酔う

頬を染めた女子高生達の
隠しきれない純朴さ
物語の行間にちらちら盗み見る

同じ早さで揺られて
全ての人は
各々の街に帰っていくのに
日増しに広がる胸の空白に捕われて
私はどんどん帰る場所を失い続ける


切なくなると
思い出す恋人の胸の中は
理由が無いと飛び込まない事に決めているから
その事で泣かない事に誇りをもっている

車掌がアナウンスを間違えて
次の駅が私の行き先を
そっと差し替える

切なくなんてない

背筋を伸ばして
焦げていく空の色を見ていたら

思い出す
永遠の
[次のページ]
戻る   Point(4)