バタフライ/藤原有絵
遠の一瞬
引力に美しく添って
傾けた腕からのカーブ
指先に留る
夕凪の蝶
計算を遥かに越えた
しなやかな恋人の中指
橙を翻して
弾けるように離れた刹那
世界は正しく動き出した
だから もう
って
あの言葉の続きを想うとき
まだ焦る心が蘇って
弾かれるように
環状線の扉の前に
手を添える私がいる
背筋を伸ばしたままの一歩は
優雅に髪をなびかせて
幼い花達の純朴さを過る
焦げた空が
熱を失う前に
理由をひねり出す前に
飛んでいく
あのしなやかな指先に留るために
ホームの白線を左足で跨いで
一瞬だけ車内を振り返る
私はそこにいない
どこにもいない
戻る 編 削 Point(4)